革命前夜の藻塩草

Anthologie à la veille d'une révolution

いまここにあるラダイト――インタネットを蠢動するお前たちへ(6)

 いま検索エンジンがやろうとしているのは,個別のサイトに誘導せずに知識を提供することである.うっとおしいスニペットにしろ意味不明なおしゃべり AI *1にしろ,けっきょくは知識をインスタントに提示してみせることにすぎない.たしかに,検索結果を表示するページを眺めるだけで,検索エンジンを使うにいたった当初の疑問がだいたい解決してしまうことがある.これは実際に便利ではある.すくなくとも,言葉の意味だとか,一問一答で答えられるような疑問にかぎっていえば,おおむねそうである.正確なところは知らないけれど,ほとんどのひとびとは検索結果のページを眺めるだけで満足してしまい,出てきたサイトをクリックして個別の記事を読むなんてしないんじゃないの,という気がしている.トゥウィタを眺めていると,(とうぜんクソリプの類であるけれど)「こんなことが言われていますよ!」「これが真実ですよ!」というのを伝える意図で,Google の検索結果のスクリーンショットを貼りつけて悦に入っている莫迦をよく見かける.たしかに,複数のウェブサイトで同じようなことが主張されていれば,自分自身の主張の説得性も増すと感じられてもおかしくはない.しかし,それらのサイトでは本当にそのような主張がなされているのだろうか? 記事全体のなかの一部分に,通説だとか,考えうる反論として書かれているにすぎない可能性もあるのではないか? お前はそれらのサイトを全部読んだのか? そもそもその検索結果のページが個別の主張の真偽にかんして何かを保証するものなどではぜんぜんまったくありえないのであって…….こういう迷惑な莫迦があらわれるようになってしまったのも,検索エンジンが知のインスタント性をむやみに追求してきた結果であり,ビッグ・テックの責任は重いといわざるをえない.*2

 検索結果の画面であるていどの疑問が解消されるようになり,個別のウェブサイトへ訪問する必要がなくなってしまったということは,実際に手を動かして記事を書いているライタや著者の記事が読まれる機会が減少してしまっているということにほかならない.それは同時に,各書き手の苦労が GoogleMicrosoft のようなビッグ・テックの収入の肥やしにされてしまっていることを意味する.すなわち,私を含めた情報の発信者は,それらビッグ・テックに搾取,ただ働きをさせられているといえるのだ.たしかに,それでよいと思う者もあろう.知識は公有物たるべきであり,あるいは,誰に言われるでもなく自分で勝手に書き散らしているだけであり,もとよりその発信に対価など必要ない,その帰結として私は搾取なんてされていない,そう言い張ることもできる.しかし,私の個人的な心情として,巨大企業が,他人が発信した情報をもちいて金儲けを企てていること,それがどうしても気にくわないのだ.実際に調査をしたり,工夫して執筆したりすることもせず,その上澄みだけを掠め取って自分たちの利益としようとする態度,それが癪に障る.だからもちろん,ビッグ・テックの所業は搾取にちがいないと思うし,断固として是正されなければならない.

 とはいえ,ビッグ・テックがいまさら規制しようなんて考えるわけがないし,われわれには自衛ぐらいしかできることはない.では,これらビッグ・テックから搾取されないようにするにはどうすればいいか.意味の分からない人工知能の「学習」とやらのエサに使われないためにはどうすればいいか.これからのラダイトは,それを考えていく必要がある.ぱっと思いつく方策としては,クローラをブロックする,表層ウェブに情報を書き込まない(ディープウェブ,ダークウェブに書く),信頼できる人間どうしでのみ情報共有をおこなう,Adversarial Attack とかして AI を倒す,などがある.*3

 大手の検索エンジンは,真偽不明の情報を高順位の検索結果として表示しても責任を取ることをしないうえ,パーソナライズなどと称して,考え方の近いサイトばかり表示する(フィルターバブル).このような環境に晒されつづけた人間は,遅かれ早かれ知性を損なうこととなるだろう.例のスクショの莫迦のような存在になりはてることは必至だ.それだけでも,ビッグ・テックは人類にとって大いに有害な存在であるのは明らかであり,それらとのつきあいかたは,つねに考えていく必要がある.

*1:世間では ChatGPT は革命だの社会を変えるだのと騒ぐ向き(「プロ驚き屋」などとも呼ばれている)もあるが,けっしてまだそんな段階にはまだない.私にいわせれば,おしゃべり AI たちは無色の緑色の考えが猛烈に眠っていると出力しているだけだ.

*2:私にかんしていえば,スニペットであるていど内容が把握できたとしても,すくなくとも一つか二つは個別のウェブサイトを訪問することとしている.とうぜん,スニペットにすべてが書かれているわけではないからという理由もある.しかし,より重大な懸念は,知識が即席に手に入るということに慣れてしまい,自分自身の知への誠実性が変質してしまう可能性である.私は検索結果のスクショを貼りつけて何か言った気になっている莫迦どもと同レベルまで降りていく気はない.

*3:残念ながら私は AI にかんしてとりつく島のない門外漢であり,インタネットでききかじったていどの知識しか持ち合わせていないし,それもかなりあやふやなものでしかない.もっと効果的に人工知能にダミジを与えられる方策を知る読者におかれては,ぜひともご教示ねがう.